自殺未遂をするホス狂い
コロナの影響が長引き、何かとルールが変わり、思うように結果が出せない日々が続いた。
売り上げも上がらないし、たまに出勤する程度になっていた。
アクセルを踏みたくても踏み切れない状況が続いて、やる気も消失していた。
そして何よりA子といるのがしんどくなってきていた。
週に一で遊びに行くのは定番化していて、連絡も常に返さなきゃ怒ってしまうし、映画に集中したり、本を読む時間さえ奪われた。
その頃、彼女は体調をくずしていて、仕事にもいってなかったし、完全にニートだった。
そんなんだから、店にも来ていなかったし、僕も呼ぶのも嫌だった。
A子はやはり僕がホストをやっている事が気にいらなくなっていて「はやく辞めろ」と言ってきた。
「今日は客来た?」とか「女と話した?」とか毎日のように聞いてきた。
仕事なのだから女と話すのは当たり前だ。
その度に適当にごまかすのももちろんきつい。
そして暇でやる事が無いからか、ホスラブを荒らし始めた。
すぐにA子が書き込んでいる事がバレて、A子が掲示板で叩かれ始めた。
そして更にヒートアップして、A子の書き込みも過激化していた。
基本的にホストも客も、みんなホスラブを見ている。
書き込みが元で担当と客が喧嘩になる事なんてよくある。
僕は興味も無いし心底くだらないと思っていたので、見る事も無かったんだけど、先輩が「隼人これは流石にやばいだろ」と書き込みを見せてきたから、その度にうんざりした。
僕からしたら、大営業妨害だ。
「掲示板で叩かれた。許せない。書き込んだ奴を特定して慰謝料を払わせる」
と訳の分からない事を言い出したかと思えば、本当に弁護士に相談して開示請求をし始めた。
「お前が書き込んだからだろ!」
と内心思ったけど、面倒なので何も言わなかった。
「あなたがホストを辞めれば、こんな事はしなくていいの。私は傷つかなくていいの」
と脅迫してきた。
「流石に限界だ」
と思った。
この子とこれ以上関わっていたら、客を増やしようがない、それ所か仕事にならないし、精神的に耐えられない。
そして別れを切り出した。
会って、話しをしたら大変な事になる事が分かっていたから、ラインを送った。
「オレはまだホストを頑張りたいし、A子はオレと一緒にいても傷つくだけだから、もう会うのは辞めよう。これ以上一緒にいるのはお互いにとってよくない。」
要約すると、こんな感じの文を送って、無視をすると決めた。
100件以上電話がかかってきたけど無視をした。
心が痛んだ。
リスカの写真も何枚も送られてきた。
お金も相当使ってもらっていたから、弁護士に訴えるだとか、そんな内容も来た。
もう、どうしようも無かった。
友達もいないし、家にも居場所がない、唯一の居場所となっていた僕が突き放してしまったら、どれだけ辛いかは容易に想像できる。
だけど僕には彼女の事を幸せに出来ない。
それが嫌なら離れるしかないと言う事は何度も伝えている。
僕には僕の人生がある。それだけだ。
次の日の夜中に遺書が送られてきた。
どれだけスクロールしても下にたどり着かないくらい長文だった。
「私が死んだ事を一生後悔すればいいと思います。さようなら。」
最後はそう締めくくられていた。
別に本当に死ぬとは思っていなかったけど、彼女の事を嫌いになった訳でもなかったから心が痛んだ。
結局無視を貫ききれず会いに行ってしまった。
さっきまで、僕に思いつく限りの誹謗と中傷を溶びせてきたのに
「あなたがいないと生きていく理由が無いの。一緒にいれないなら死ぬ」
と言った。
手首から腕にかけてのリスカ跡と、青白い彼女の顔を見るといたたまれなくなってしまった。
それと同時にどんよりした気持ちと憂鬱が込み上げてきた。
「もう逃げられない」
そう思った。
結局状況は1mmも変わらなかった。
ーーーエピソード26へ続くーーー
常にマスクをしているのが当たり前な時代に突入した。