エピソード8【恋愛依存症】
そんなこんなで、N子の中で彼氏だったはずのスカウトはいつの間にか悪者になっていた。
それにしても、ここでの彼女の切り替えの早さにはビビった。
「あの人のせいで私の人生めちゃくちゃにされた。」と、ディスっていた。
結局それは全部周りの意見だ。
直接対峙した訳でも無いのに、よくもまあ、ここまで手の平を返せるよなと思った。
「絶対仕返しする。」
あゆむちゃんが余計な入れ知恵をしたせいで、そんな風に復讐に燃えている始末だった。
僕的には「復讐」と言う行動がそもそもナンセンスすぎると思うし、そう言う事をしようとする人が嫌いだ。
大概の事は自分の責任だ。
誰かに甘んじるからそうなる。
余計傷を広げるだけだし、時間の無駄だし、本当に意味が分からない。
限られた人生の少ない時間を、そんな事に費やそうとする人が一定数いるけど、本当にバカだと思う。
余計な愚痴を吐いてしまったけど、話しを戻す。
あゆむちゃんの入れ知恵えとしては、スカウトに、内容証明を送って、家出してからかかった宿泊代、交通費、それに加えて慰謝料を請求しようと言う事だ。
「内容証明の書類を作成してスカウトの家に送るから、後は任せて」
と、あゆむちゃんが言っていた。
彼女はそれをまるっきり間に受けて、金を取り返す事が出来ると信じ切っていた。
何なら、その金が返ってくるのを前提に行動していたくらいだ。
「バカじゃ無いの」と思った。
そんな事出来るはず無いし、仮に出来たとしてもシンプルに面倒臭い。
そんな事に時間を割こうと言う考えが稚拙すぎる。
終わった事をグズグズ引きずってみっともない。
そのくせに自分では何もしない。
誰かが出来ると言うのなら出来ると思うのだろう。
そんな事よりも彼女は職探し、家探しを早急に済ませないといけない。
それまで、彼女は毎日店に来て、営業後はネカフェで過ごしていた。
こちらから一切営業はかけなかったけど、孤独に耐えられなかったのだろう。
「ようやく自分の居場所を見つけた」
そんな感情だったのかも分からない。
店からは「客を呼べ」と常にプレッシャーをかけられるし
僕もホストとして、「行きたい」と言ってるのをわざわざ断る事はしなかった。
「一緒にいたい」
「寂しい」
営業後も、常にそんな事を言われた。
今、そんな事より優先する事があるとかは、どうでもいいのだろう。
人の事が好きになると他の事が一切見えなくなる。
恋愛依存の気質は明らかだった。
普通に恐怖を覚えるレベルだった。
「キャバクラとガールズバーの面接決まったから一緒に来て欲しい。」
そう連絡が来た。
当然、何で俺が行かなきゃいけないんだよと思ったけど「一人じゃどうしても不安で」と言われ、同行する事になった。
「キャバクラもガールズバーもこの顔じゃ無理だろ」
と、不審にも思った。
どうやら東京に出てきて水商売をやるのが元々の目標でもあったらしい。
勝手にスカウトの事を悪者に仕立て上げていたけど、元々そのつもりだったらしい。
しかし、まあ、当たり前のように落ちた。
「そりゃそうだろ」
と、思った。
それから一週間くらい、時間を作って彼女の面接に同行する日が続いた。
しかし、キャバクラ、ガールズバー、何店舗も面接を受けた結果、全部落ちた。
「仕方ない仕方ない!次がんばろ!」
表面上そう励ましていたもの、ただでさえ少ない休みの中、最初から分かり切ってる茶番劇に付き合わされてイライラが募った。
キャバクラ、ガールズバーは無理だと言う事が分かったのか、次は風俗の面接を受け始めた。
しかし、風俗の面接も立て続けに落ちた。
結局「N子ちゃんはここしかない」と、ゆか氏が見つけて来て、決まったのは池袋にある「レベルの低さ日本ー!」を謳う低級店だった。
ホームページを見たらひどかった。
彼女はこの現実をどう思っているのだろうか。
「とりあえずは、仕事決まってよかったね」
「うーん」
喜んでいるようには見えないけど、ひとまず仕事が決まった事には安心しているようだった。
現実は残酷だ。
ーーーエピソード9へ続くーーー
いつかの営業終わり