ホストVS悪徳スカウト
この日は、例の客(ここからはN子と呼ぶ)とあゆむちゃんと、あゆむちゃんの客と居酒屋に来ていた。
とりあえず僕は帰りたかったので、早急に解散になる事を祈ったが、メンバーがメンバーだからそうは行かない。
そもそも、高い金を払って店に来てくれているお客さんと一緒だ。
基本的には、1秒でも長くいようと粘られる。
だから、店外で会いたくない。
メインテーマは家出してきたN子の今後についてだ。
どうやら、連絡が取れなくなった彼氏から今朝、ようやくラインが来たらしい。
彼女の話しによると、彼氏は出張で海外に行っていて、台風の影響で帰ってこれなくなったらしい。
その際にスマホを無くして、なんやかんやで連絡が出来なかったとの事。
先ほど羽田に到着して、明日には東京に戻ってくるとの事。
「どうするの?」
そうN子に聞くと、色々不審な点もあるけど取り敢えずは彼氏の所に行きたいと言うのが、彼女の意見だった。
しかしあれだ。
羽田は国際便だ。
海外に行く場合は基本的に成田だ。
嘘が下手くそすぎる。
彼女の中では明日から、彼氏に仕事を紹介してもらって、同棲が始まると信じ込んでいる。
僕からしたら、Twitterで仲良くなって、今まで一度も会った事が無い人と恋人になって、仕事を紹介してもらって、上京していきなり一緒に住み始める。
こんな上手い話しがあるはずないと思った。
そもそも一度も会った事が無い人と、いきなり一緒に住むと言う考えの時点で神経がイカれすぎだ。
本当だとしたら彼氏も大分イカれてる。
普通に怖いと思った。
「仕事を紹介する」
と言う、点がやはり引っかかった。
聞くと、彼氏の紹介なら割のいい仕事がたくさんあって、今探してもらっているからそこは心配しなくてもいいとの事。
いや、むしろ一番心配しなくちゃいけないのはそこだ。
仕事くらい自分で探せ
「仕事を紹介する」ほど怪しい言葉は無い。
しかしこんなにも簡単に、口車に乗せられる人が本当にいるんだな。
と、驚いた。
「牧場で牛か何かと暮らしてたの?」
思わずそんな、皮肉めいたツッコミを入れたくなったが、グッとこらえた。
しかし、まあ僕には関係無いし、何より早く帰りたかったし、興味も無くなっていた。
まだ100%彼氏が悪者だと断言する事は出来ないし、結局は第三者がとやかく言う事じゃ無い。
僕達の忠告を踏まえた上で、彼氏に会いにいけばいいと思った。
そうでなきゃ彼女の想いも報われないだろうし。
そんなこんなで、僕的には、じゃあ気をつけて行って来なよー。
的な感じで話しを終わらせて、帰りたかったのだが、あゆむちゃんと、その客のゆか氏はそうは行かない。
N子に根掘り葉掘り、容赦なく質問を浴びせている。
そこで、彼氏の写真を見せてもらう事になった。
背が高くて、髪を立てていて、意外にも好青年のイメージだった。
「いい人そうだし大丈夫なんじゃ無い」
適当に推測した。
しかしイケメンとは言えないけど、普通にモテそうな感じだ。
確実に言える事は、彼女と釣り合うような見た目ではない。
行きついた結論としては、最初に思った通り彼氏は水商売のスカウトだと言う事だ。
ラインを見せてもらって、スリーサイズとバストのカップ数を教えてと言う一文が決定打となった。
多分、紹介される仕事は風俗で、店を紹介したスカウトには、女の子が辞めない限り永続的にスカウトバックが入ると言う仕組みになっている。
当然、同棲なんて出来ない。
まあ、僕はそれを確信した上でも、彼女が会いたいと言っているなら行くべきだと思った。
基本的に他人の行動を阻止する。
と言う考えは僕には無い。
あゆむちゃんから、外で2人で話そうとラインが来たので、席を立った。
「隼人あの子は絶対金になる!ここで逃したら絶対ダメだ!」
分かってはいたけど、僕達の狙いとしては、彼女がスカウトの所に行くのを阻止して、これからもホストに通わせる事だ。
しかし、それだと結局こっちが騙しているみたいで気が引けた。
そこまでしなきゃ行けないのかと思った。
入店3ヶ月目にして、早くもホストと言う仕事の真っ黒い部分を再度リアルに痛感させられた。
「絶対編されてるよ」
「行ったら終わりだよ」
と、説得するあゆむちゃんとゆか氏に対して
「そうかもしれないけど、まだ彼氏の事信じたい。」
と、淡い恋心をチラつかせた。
(一度も会った事ねーだろ!)
と、心の中で僕はつっこんだ。
色々段階をすっ飛ばしすぎだ。
何と言うかこの子の脳は直流回路のようにシンプルだ。
でも、そもそもN子がうちに通うようになったって、担当ホストの僕の売り上げが上がるだけで、僕の利益にしかならないのに、何故ここまで2人は動いてくれるのか疑問だった。
感謝しなきゃいけないな。と思いながら、それもプレッシャーに感じて、面倒臭い気持ちが圧勝していた。
そんなこんなで、僕は睡魔も限界に来ていて、超適当に相槌を打っているだけだった。
スカウトから 「電話出来ないか?」とラインが来たので、電話をする事にした。
その時、時刻は深夜3時くらいだったと思う。
残念な事に、朝5時まで営業の居酒屋だったので閉店まで粘るしかないと、覚悟を決めた。
「化けの皮はがしてやる」
あゆむちゃんが腕まくりした。
スピーカーにして、全員が聞こえるようにした。
思ったより物腰柔らかで、優しい声だった。
最初は、あゆむちゃんとゆか氏が、あれこれ聞くようにカンペでN子に指示を出していたが、 途中からあゆむちゃんが割り込んだ。
「ちょっといいですか。N子ちゃんの友達なんですけど、あなたスカウトですよね?N子ちゃんの事騙してますよね?」
スカウトもまさかの展開だったのか、口ごもった。
これで諦めるかと思いきや、 向こうも流石プロだ。
わざわざ愛知から、東京まで引っ張り出した獲物をそう易々と逃す訳に行かないのだろう。
ちゃんと正論っぽい事で言い返して来た。
しかし、そんなの最初の内だ。
「てめーN子ちゃんの事騙してんじゃねえぞ!つかいくつだよ!俺年上なんだけど?」
あゆむちゃんがヒートアップしてきた。
今、年齢はどうでもいいと思う。
「つか、立川来いよ直接話しあったほうがいいべ?」
「ぶっ殺すぞ!」
最終的にはそう叫んでケラケラ笑いだした。
周りの人が不審そうに見てきたので、ゆか氏が「まあまあ」とあゆむちゃんの事をなだめてた。
僕は眠たかった。
今、彼女の周りにいるのは申し訳ないが、僕も含めて全貝悪人だ。
純粋な善意なんて一切ない。
しかし、まあ、スカウトに編されてノコノコついて行くよりは今守ってあげた方がマシかなと思った。
当然話しに終着点はなく、「こいつダメだ。 話しになんね。」 と言う、 話しになんない一言で、 終わりになった。
あとは隼人次第だぞと言う空気が流れ始めた。
早く、帰りたかった。
「N子ちゃん。 もう彼氏の事はあきらめな。 代わりにオレが君の事サポートするから。オレと一緒に頑張ろう」
「いいの?これ以上迷惑かけられないよ」
初めて彼女が迷惑と言う、言葉を口にした。
「大丈夫オレが側にいるから」
「ありがとう。 私隼人さんとなら頑張れる気がする」
どれだけ脳の作りが単純なのだろうか?
まるで直流回路のようだ。
ーーーエピソード8へ続くーーー
10月のハロウィンイベントの時の写真
魔女の宅急便のキキだが、「和田アキ子」と言われてショックだった。
隣はあゆむちゃん