エピソード2【初送り指名】
2019年7月15日。
当時26歳だった僕は、アラサーにしてまたしてもホストデビューした。
次の店は前の店に比べたら多少盛り上がっていたし、何より雰囲気が良かった。
前の店の代表はほぼヤクザでメチャクチャ怖かったけど、今度は怖い人もいなかった。
何より、会社が終わってから出勤するという僕のハードな状況を理解してくれた上で歓迎してくれた。
そして有難い事にほとんど年上だった為、年下に敬語を使うと言う嫌な思いをする必要もなかった。
職場も家も店も立川だったから、立川を中心に生活をする事になった。
仕事を18時定時で終えて、ネカフェで着替えて19時に出勤すると言うハードな日々が始まった。
ラインの名前を変えるのが嫌だったから源氏名は本名の隼人のままにした。
まずは、従業員と仲良くなる事。
その次に先輩のお客様に気に入られる事。
そして次に自分のお客様を呼ぶ事。
このステップを意識した。
そしてあまり我を出さない事。
お客様や先輩の話しを真剣に聞くこと。
我を出さずにあくまでも「いい奴」に徹すること。
何があってもイライラせず穏やかでいる事。
しかし、それはあくまでもふりであって、人の意見には流される事無く、自分をもってやると決めていた。
入店
体験入店から感触は良かった。
一切緊張はしなかったし、ついた席では褒められたし、そこそこ気に入られた気がした。
従業員もみんないい人だったし、親切に接してくれた。
入店して3日目
店が暇で、先輩がキャッチに出ると言ったのでついて行った。
しかし、先輩は外に出た事をいい事に、たばこを吸って、スマホをいじってゲームをしているだけだった。
一人だけ真剣に声をかけていた先輩がいたので、その人についていった。
しかし、見た感じその声のかけ方じゃ、絶対無理だろ。
と言う声のかけ方だった。
「キャッチでお客さん来た事あります?」
「1回だけー。でも、声をかけない事には始まらないからねー」
この人の事はなんか好きだなーと思った。
速攻で結果を出したいと思った。
丁度前から、酔っばらった30代前半くらいの、言い方は悪いけどメンヘラっぽい女性が歩いてきた。
なんとなくイケる気がした。
「ちょっと見ててください笑」
「がんばってー!」
「おねーさんこんばんは。今街頭アンケートとってるんですけど一個だけ質問いいっすか?」
「なんですかー?」
「イケメンと割り勘でネカフェ行くのと、おじさんに奢ってもらって沖縄行くのどっちがいいですか?」
「え一何それ笑」
酔っぱらって機兼がいいのか、立ち止まって話してくれた。
まずは立ち止まって会話に持ち込む必要がある。
これは成功だ。
「てかおにーさん何なんですかー?スカウトですか?」
「あ、僕っすか、ホストです」
「えー!全然見えない!」
「最近始めたばっかなんで笑、今日ちょっとお客さん捕まえるまで帰れないんですよ!良かったら1杯どうですか?笑」
「嫌だよ!私お金無い!」
「あ、全然全然!安いですよ!2時間1000円で飲めます!」
これは本当だ。
ホストクラブは初回は安い。
指名をして、担当のホストが決まってから料金が高くなるのだ。
それでも、初回で来るお客様は3日に1組来るか来ないかくらいだ。
それが相も変わらず立川のホストクラブの現状で、だからこそこうしてキャッチに出て新規のお客様を引いてくる事に大きな価値があるのだ。
「何それ?1000円?怪しすぎない?」
「いやいや!マジです!ホストって最初は安いんですよ!嘘だったら訴えてくれて大丈夫なんで!」
「えー、じゃあ行って見ようかな笑」
ウケる。
ビビるほど簡単に成功した。
普段僕はナンパなんて出来る方じゃないし、と言うか面倒くさいからそんな事したくないタイプだ。
しかし。これが仕事となれば割り切って声をかける事が出来るから不思議だ。
「お疲れ様です!キャッチで新規のお客様引いたので今から向かいます!」
「マジか!すげーな!」
代表に電話すると驚いていた。
ナンパに成功すると、褒められる。
これも謎だ。
ナンパしてる奴なんて印象は最悪だし、はっきり言って害悪だ。
しかし、これは仕事だ。
ナンパに成功すればするほど、僕の評価は上がっていくのだ。
マジでウケる。
「隼人くんすごいなー」
先輩も言ってくれた。
結局、そのお客様から初めて送り指名も頂いた。
送り指名とは、初回で来たお客様が、その日ついたホストの中で一番いいと思ったホストを選んで送り出しをすることだ。
送り指名をもらったら、指名も勝ち取りやすい。
ーーーエピソード3へ続くーーー
当時の格好はこんな感じ。
何もかも安物である。