シェアリングエコノミーの拡大を狙ってプリンターリースの会社を立ち上げてみた
リスクが大きいのはどう考えてもYの方でした。
1年目から年収が500万はかたい、大手の就業を蹴ったのです。
それに比べて、時給1500円の派遣の仕事なんてどうでもいい話でした。
ただ唯一問題なのが、僕には貯金が1円も無かった事です。
1ヶ月働かなければ、現金を使い切ってクレジットカードで生活をし、その翌月には引き落としが間に合わず、借金生活になる事は目に見えてました。
クレジットカードが止められたら今度は別のクレジットカードで買い物をし、またそのカードが止められるまでその場を凌ぎ、それを繰り返し、ブラックリストに乗るまで秒読みです。
情けない事にビジネスを始める初期費用はおろか、仕事を辞めて1ヶ月生活する財力すら持ち合わせてなかったのです。
その時の僕に、銀行や消費者金融でお金を借りれるような信用は当然ありませんでした。
「大丈夫。最初はきついかもしれないけど、2ヶ月あれば絶対に結果が出るから。」
Yにその事を話すと、彼は自信満々にそう言いました。
そして将来の展望について話しました。
最初は借金生活になるけれど、達成した目標を順調にクリアして行けば、1年後には月収が100万を超えている計算でした。
そうなったら、オフィスを構えて社員を雇って、法人登記をしようと言いました。
夢が広がりました。
こいつなら絶対出来る。
せめて僕は彼の足を引っ張らないように努力をしようと考えました。
ビジネスでかかる初期費用の大半はYが負担してくれると言いました。
この時薄々感づいていた事は、Yの実家がお金持ちと言う事です。
彼は普段それを隠して話していましたが、万年貧乏で普通以下の生活をしてきた僕からして見れば、話の節々で「自分とは違う世界で生きてきたんだな。」と言う事を痛感させられました。
国民生活信用金庫でお金を借りるわけにも行きません。
初期費用が掛からないビジネスと言っても、ある程度の資金が必要になってきます。
会社ロゴの作成、名刺、営業で使う電話番号の取得、FAX、検証用のプリンターの導入費、インク、その他諸々
ざっと計算しただけで、50万円は掛かりました。
Yが作った会社用のクレジットカードでそれらの契約を済ませました。
僕が最初に頼まれたのは営業用資料を作る事でした。
それと同時に、Yはプログラミングを勉強しながら会社のHPを作成し始めました。
当時作った資料があるので転載せます。
見て頂ければ、自分達がやろうとしていたビジネスの内容が分かると思います。
大分端折ってますが、我ながら中々の出来の良い資料だと思います。
見て頂ければ分かると思うのですが、僕達は「INK BOY」と言う会社を立ち上げて、インクジェットプリンターと言うプリンターを企業にサブスクリプションでリースしようと考えました。
企業にとっても今までの印刷費用を大幅にカット出来ると言う、大変お得な話です。
Apple MusicやAmazon Primeなどの配信サービス、ましてや車や洋服なども月額でレンタルするサービスが増え、定額制の需要が急速に拡大し始めた現代で、企業用のプリンターも定額制にしてしまおうと言う狙いです。
お得なサービスを提供出来るカラクリとしては、当時小型のプリンターの性能が急速に高まっていましたが、それを知らない人がほとんどでした。
このインクジェットプリンターは家電量販店で10万円未満で普通に買える物です。
さらにもう一つ、インクです。
一般的に使われているプリンターのインクはRICOHやBROWNなどのプリンター会社が販売している正規品で、実はこれがめちゃくちゃ高い。
原価はほとんどかからないのに、大手プリンター会社はこのインク代で大幅な利潤を得ています。
台湾や中国などで非正規のインクを購入すれば、日本で買う100分の1程の値段で同じようなインクを購入出来るのです。
そして僕達は海外で購入したインクを月額のサービス料に含ませたのです。
企業からしても大幅にコストカット出来るし、僕らも利益が生じwinwiinな関係です。
当時、僕達と同じようなビジネスをしている会社は何社かありましたが、この市場が拡大する前に早めに手を打ちました。
世の中のありとあらゆる情報に着眼し、こんなビジネスを思いついたYは本当に賢い奴です。
どうでしょうか?
ここまで読んで頂いて、このビジネスは成功すると思えますか?
業務用インクジェットプリンターの性能とカラクリ
それから毎日僕のアパートで作業をする事になりました。
「これからビジネスを始めるんだ!」
初めてのそんな体験にワクワクしました。
プリンターがAmazonから運ばれてきた時は2人してはしゃぎました。
このボロアパートから革命が起きるような予感がしていました。
しかし検証用プリンターで印刷をして見た所、様々な不具合が発生しました。
まず遅い。
印刷スピードが圧倒的に遅いのです。
上の資料に書いてある速度で全然印刷が進まないのです。
そして頻繁に紙詰まりを起こす。
解像度も明らかに低い。
個人で使う分には問題ないかもしれませんが、商品として企業に貸し出すレベルには達していませんでした。
そしてインク。
非正規品の互換インクを入れると「このインクは正規のインクではありません」と言うエラー表示が出るのです。
互換インクを普及させないよう、BrownやRICOHも対応をしていたようです。
表示が出るだけで印刷が出来ない訳では無いのですが、それでもお客さんにつっこまれる度に弁解するのも面倒な話です。
僕達と同じ製品を企業にリースしてる会社もありました。
カラクリを解く秘訣はあるはずです。
そして色々調べて見て分かった事は、他の会社はインクを自作していると言う事でした。
海外の工場と契約し、エラー表示が出ないような互換インクを特注で作っているのです。
当然僕達にはそんな事は出来ません。
ある程度軌道に乗って、資金があるからこそ出来るビジネスです。
印刷や紙詰まりに関してはどう対処しているのか不明でした。
恐らく独自で改造でもしているのでしょうか。
その時点で僕はもう一気に「ダメじゃん」と思いました。
しかし、Yはそんな時でも愚痴もこぼさず難解な問題に対処して行こうとしていました。
トライ&エラーを繰り返して問題を解決して行こうとするYの姿に感服しました。
「根本的にこう言う所が違うんだろうな」
と、Yと自分を比べそう思いました。
「自分も頑張らなきゃ」
そう思いましたが、為す術はありませんでした。
印刷代行のビジネスをやってみた
2週間程して、プリンターリースの事はぼんやりとしてきました。
とりあえずはこれだけプリンターがあるのだから、印刷代行サービスをして見ようと言う話になんとなくなっていました。
年賀状、名刺、フライヤーや企業の営業用資料の作成を代行するのです。
当時の資料です。
しかしこのビジネスを始める上でも問題が発生しました。
プリントパックに勝てない
ラクするに勝てない
ざっと値段を調べて見た所、意味が分からないくらい安い。
大量印刷が低価格を可能にしている。
とサイトに書いてありましたが、それどころじゃありません。
僕らの仕入れ値だと、紙とインク代だけで赤字になってしまうレベルで安いのです。
そして質も高い。
そんな値段でやったら採算が取れません。
しかし、だからと言って諦める訳には行きません。
ラクするやプリントパックがこれだけ普及しているからと言って、知らない人もいるでしょうし、町の不動産屋やら、工務店、飲食店、ありとあらゆる企業に営業の電話をかけました。
1日2人で400件くらいペースで10日程電話をかけ続けました。
しかし驚く事に取り合ってくれた企業はほとんどありませんでした。
僕達2人に営業スキルが無い事も問題だったのでしょう。
これだけ大変な思いをして契約が取れてもプリンターリースならまだしも、印刷代行で得れる収入なんてたかが知れてます。
やるだけ時間の無駄なような気がしました。
民家や企業に資料をポスティングもしましたが反応はありませんでした。