4日目.神戸を出発
「おいキャベツ!起きろ行くぞ!」
兵庫県神戸市、ネットカフェのフラットシート。
僕は稲川の呼びかけにより目を覚ましました。
時刻は朝10時を回っていました。
ベンチでも道の駅でもなくネットカフェで、久しぶりのまともな睡眠です。
柔らかいフラットシートの心地良さにより少し寝すぎたみたいです。
これから博多に向かう予定です。
「あーうん。」
僕は稲川にそう答えるとモゾモゾと準備を始めました。
幾分か疲労感は消えていましたが、本音を言うともう一日このネットカフェでごろごろ漫画でも読みながら過ごしたい。そう思いました。
そもそも何故ヒッチハイクもしない、車で喋らない、ネカフェの宿泊代すら持っていない稲川にこの旅の主導権を握られるのか謎でした。
僕はこの長旅に備え、シャツやらパンツやら10枚以上、それに加えパソコンやハードディスク、レインコート、寝袋など大量の荷物を持って来ていました。
でっかいボストンリュックにパンパンに荷物を詰め込み、無理やりにチャックを閉め肩に背負いました。
肩が引きちぎれるんじゃないかと言う重みに憂鬱を覚えました。
対照的に稲川は、小学生がプールに行く時用くらいの小さめな肩掛けの布バックのみを背負い身軽そうにしていました。
変えのシャツは一枚しか持ってきていないとの事です。
「お前荷物少なくていいなあ。ちょっとこのキングスライム持ってくれよ。」
そう彼にお願いすると「お前がもらったんだろ。」と断られました。
僕はイライラしながら、新たに加わった仲間のキングスライムを抱き抱え、ネットカフェで2人分のお会計を済ませると、真夏の太陽の下に繰り出しました。
これからヒッチハイクをしようと思ってる人へ、荷物は出来るだけ少なくして行った方がオススメですよ!笑
もちろんまずは高速に乗るところからスタートです。
ネットカフェから玉津のICは近く、徒歩でIC前まで行く事が出来ました。
IC前にはファミマがあり停まってる車に声をかけまくりました。
しかしファミマから高速に乗る車はおらず、僕は稲川をファミマのベンチで待たせるとICの目の前の横道でスケッチブックを掲げる事に決めました。
「30分以内に頼むぞ。」
彼の傍若無人な発言と、真夏の太陽が相待ってイライラしました。
しかし本当に30分以内に車を見つける事が出来ました。
とりあえず一番近くのPAまで連れて行ってくれるとの事です。
熱海では高速に乗るまで、丸一日を要しましたが今回は30分です!
稲川に対するイライラも一瞬で吹き飛びました。
彼に車が停まった事を報告しに行く時もこの表情です。
「おー!まじか!」
僕があげたお小遣いの1000円で買ったであろう缶コーヒーを飲みながら優雅にタバコを吸っていた稲川は、そそくさと火をもみ消しました。
「なんやお前ら!青春しとんなー!ええなー!!」
最寄りのPAまで乗せてくれたおっちゃんは、そんな事を言う陽気な人でした。
「お前ら神戸に来といて明石焼きも食ってないんかい!これで明石焼きでも食いー!」
神戸を特に観光しなかったことを伝えると、PAで明石焼きを食べるよう1000円をくれました。
神戸の明石焼きはとんでもなく美味いと前々から聞いていたので是非食べて見たいと思っていました。
ハードルを上げすぎてしまいました。
いつかきちんとしたお店で明石焼きを食べて見たいものです。
明石焼きを食べきり、僕とキングスライムはヒッチハイクを再開させます。
またしても30分以内に車が停まりました!
今日は絶好調です!
しかしこのPAは車が少なく、なかなか厳しそうな状況です。
「好調なのはここまでか」と思いきやここで奇跡が起こります。
1時間程経ち、日が沈んで来た岡山県のPA、次は広島、山口県くらいまで行ければいいと思いダラダラとスケッチブックを掲げてはベンチで休憩をしてを繰り返していました。
ダラダラとスケッチブックを掲げる僕の後ろで何やら稲川の愛想の無い声が聞こえました。
誰かと喋っているようです。
その時何故か僕は気にも止めませんでした。
スタスタと稲川が近づいて来て狐に包まれたような顔で言いました。
「キャベツ、博多まで行くって。」
「えっ」
理解するまでに時間がかかりました。
岡山から博多に行く車が停まるとは思ってもいませんでした。
「乗せてくれるんの?」
稲川が頷きました。
歓喜!!!
東京からから博多へ
それから稲川と僕は博多行きのトラックに乗り込みました。
深夜の高速をドライバーの石原さんは軽快に飛ばして行きました。
今までどんな人生を歩んで来たのか。
僕はふとそんな事が気になって石原さんに尋ねました。
毎日1人っきり、深夜にトラックを運転するのもきっと孤独なのでしょう。
石原さんはたくさんの事を話してくれました。
今までの仕事の事、トラックの運転手を始めたきっかけ、家族の事、子供の事。
ここまで旅をして気付いた事があります。
ヒッチハイクで車に乗せてくれる人には2種類の人がいます。
「ヒッチハイカーの話しを聞きたい人」と「自分の話を聞いて欲しい人」の2種類です。
僕はここまで自分と言う人間を語る事、様々な人の人生を切り取る事、他人の優しさに触れる事で新しい自分を少しずつ見つけられそうな気がして来ました。
気付いたら助手席で僕は眠ってしまっていたようです。
稲川と石原さんの話し声が聞こえて来ます。
僕が寝てしまった為、話さざるえなくなって稲川は石原さんと会話をしてくれていました。
僕は最初から起きてる風を装って会話に参加しました。
真っ暗な山陰道路の山道を抜け、都会の明かりが灯って来ました。
どうやら博多に到着したようです。
高速から降り、僕は去って行くトラックが見えなくなるまで手を降りました。
深夜1時、僕達は博多に上陸しました。
まさか神戸から博多まで1日で来れるなんて思ってもいませんでした。
巡り合わせに感謝!圧倒的感謝!
4日目、福岡県博多市にて終了
6日目へ続く。