Episode.18【ささくれ】
その後、幾度と無く彼女に電話をしましたが1度も出る事はありませんでした。
長文のラインにも既読が付く事はありませんでした。
眠れない夜を過ごしました。
『ユキは癌で苦しんでいる。オレが守ってあげなきゃ。』
そう信じて頑なに疑いませんでした。
丁度その時期にバイト先に新人が二人入って来ました。
一人はケイさんと言って30歳の綺麗なお姉さんで、心理カウンセラーを目指していると言っていました。
もう一人の後輩は以下Bと呼びます。
Bは色白で、カラコンをしていて髪をホスト見たいに盛ってる派手な奴でした。
仕事には全くやる気がなく、僕にやたらと懐いて来ました。
どことなく雰囲気がAに似ている奴でした。
二人は人員が不足している夜勤帯に僕と一緒に入って、僕が仕事を教えると言うような日々が続きました。
仕事が無く、暇な日々が続いていたので自ずと会話をする機会が増えました。
「隼人くんなんか暗い顔してる事が多いけど、嫌な事でもあったの?」
心理カウンセラーのケイさんは、いち早く僕の異変に気付いてくれました。
悩みを人に相談した所で意味がない。
今までの僕はずっとそう思っていて、他人に相談をした事なんて一度もありませんでした。
しかしケイさんになら話していいかもしれない。
と、僕は彼女の事を信頼して今までのユキとの事を全て話しました。
ケイさんは僕の話しを真剣に聞いてくれました。
気付いたら僕は感情的になっていて、ケイさんに苦しみやユキに対する想いをぶつけていました。
「良く頑張ったね。隼人くん偉いよ。」
彼女はそう言って、僕の事を宥めてくれました。
そんな事を他人に言われたのは初めてでした。
少しだけ気持ちが楽になりました。
「大丈夫。ユキちゃんは必ず隼人くんの所に戻ってくるから。」
彼女は優しくそう言いました。
1週間経っても、ユキからは何の連絡もありませんでした。
心身をすり減らすだけの日々が続きました。
ユキに送った長文のラインを幾度と無く眺めました。
ユキがいなくなってから2週間が経ったある日。
なんの前触れも無く、彼女はお店にやって来ました。
常連の背の高い男と一緒でした。
まるで何事もなかったかのように談笑しながら店内に入って来て、僕の事は視界に入っていないかのように席につきました。
それからその男と楽しそうにダーツを投げ始めました。
そこに僕の取り入る隙はありませんでした。
心臓はギュッと小さくなってキリキリ痛みました。
それでもどうにか彼女がトイレに立つタイミングを見計らって、僕は彼女に声をかけました。
「良かった元気そうで!癌の事は大丈夫そうなの?」
彼女は目も合わせずに言いました。
「大丈夫ありがとう」
感情の一切乗ってない声でそう答えると、スタスタと僕の前から去って行きました。
心臓が喉の方まで上がって来て呼吸が苦しくなりました。
僕はその場にうずくまって涙をこらえました。
ケイさんが僕の事を見つけました。
「隼人くん!大丈夫!隼人くん!」
ケイさんの顔を見ると涙がボロボロこぼれました。
ケイさんは今にも崩れ落ちそうな僕の腕を抱え、バックヤードまで連れて行くと椅子に座らせました。
「すいません。すいません。」
僕は泣きながらケイさんに謝りました。
「そっかーやっぱアレがユキちゃんか状況は良く分かったよ。大丈夫あの子は隼人くんの事を試してるの。」
それからケイさんは複雑な家庭環境で育った子がとるような行動や心理を僕に教えてくれました。
それから今後僕がどうするべきかも、順を追って説明してくれました。
僕は少しずつ呼吸を整えてケイさんにお礼を言いました。
心理学を勉強しようと思ったのはこの時でした。
とにかく今僕がやるべき事は、何があっても自分を強く持ち続けユキの事を見守り続ける事でした。
襟元を正しました。
Part.19へ続く