Epsode.10 【女々しさ】
バイトを終えて家に帰った僕は疲れ切って死んだように眠り、夕方に目覚めました。
夜勤が続く生活をしていたので起床時間は基本的に夕方でした。
スマホを見るとユキからラインが入っていました。
「隼人さんはAの事好きですか?」
謎のラインでした。
「いや、どうだろう笑どうして?」
僕は曖昧に返しました。
「本当はこんな事伝えるべきじゃ無いと思うんですけど私Aが許せなくて。」
その一文の下に、Aからのラインのスクリーンショットが添付されていました。
「ユキ隼人さんに告白したってマジ?あの人正直マジでクソだよ絶対辞めた方がいい。」
続いて僕が行った悪行や女性関係での素行の悪さが綴られていました。
僕は目を疑いました。
こんなラインをユキに送った所でどうなるのか?
ユキがAの所に戻ってくるはずは無いし、余計に嫌われるだけで逆効果なのが分からないのか?
僕はAの卑怯さと女々しさに気色悪さを覚えました。
そしてバンドメンバーである僕の事を、ここまでボロクソに言える事がショックでした。
苛立ちは覚えませんでした。
気色悪さと悲しさが混じった苦い味を僕は口の中で噛みしめました。
もちろん僕は大した事なんてしていません。
Aの文章は存分に誇張してありました。
本当の事もありましたが、仮にそれがユキにバレたからと言って弁解するのも面倒くさいと思ってしまうレベルでした。
「この文章が本当かどうかなんてどうでもいいですし、私に隼人さんの事を悪く吹き込むような行動が許せません。」
彼女から追加でそう送られてきました。
僕が予想した通りユキは物分かりがいいタイプでした。
「本当の事もあるよ。あいつなんなんだろうな‥」
そう僕は返しました。
思わずため息が漏れました。
そしてりょうたに電話をしました。
「飯でも行かね?」
「えーっ、いいっすよ・・」
彼は僕からの誘いに95パーセント応じてくれます。
そんな所が好きでした。
ユキとの事、Aとの事、僕は今までの事をりょうたに話しました。
いつもふざけてる彼でしたが真剣に聞いてくれました。
「隼人さんあんな奴と何でバンド組むんですか?言いたく無いすけどあいつ裏で隼人さんの事ボロクソ言ってますよ。」
僕はまた落胆しました。
ユキとのゴタゴタが発覚するまでは確実にAは僕の事を慕ってくれていると思っていました。
Aは誰に対しても陰で悪く言うようなタイプです。
もちろんりょうたの事も、他の全員に対して裏で僕にぐちゃぐちゃ言ってきていました。
その度に僕は彼の言葉を聞き流してきていました。
自分だけは例外だと思っていましたが、りょうたの話を聞いているとそれ所か周りと比べても僕へのディスりは激しかったようです。
「ギターも確かに上手いですけどあんな奴正直ゴロゴロいます。あんな性格ゴミ人間と上手くやってけるわけないじゃないっすか。」
彼もまたバンド経験者でドラムをやっていました。
Aとのバンドにも誘いましたが「Aが嫌いだから無理です。」と言う理由で断られました。
その後もりょうたはしばらくAの事をディスりました。
今まで知りませんでしたが、りょうたの元カノにAがちょっかいを出した事が原因で彼は元カノと別れていました。
僕は驚きました。
りょうたの元カノとも面識がありましたし、別れたと言う事も聞いていましたが理由は知りませんでした。
彼がAの事を必要以上に毛嫌いしている理由がようやく分かりました。
僕はその話に激しく同調しました。
自分との問題じゃなければ人の事を悪く言っても罪悪感に刈られないのは不思議です。
この場では僕がAの事を悪く言うのは「りょうたの為」になるのです。
それに一方的に話を聞いてもらうのは何だか気が引けるし、お互いの話しをした後だと自分もより話しやすくなるもんです。
それから暫く僕らはああだこうだAの事を悪く言い合いました。
それだけで気分が大分楽になりました。
僕はもうバンドの事なんてどうでもいいやと思い始めました。
Part.11 へ続く