Epsode.6 【大晦日】
それから何日か、ユキはお店にやって来ませんでした。
Aは相変わらず荒れていましたが、ユキが来ないだけまだマシな状況でした。
12月31日、大晦日。
もう今年も終わりです。
僕は毎年、年の終わりのこの時期に、一年を振り返ると言う恒例行事を設けていました。
1月から12月まで出来事を全て振り返り、大きな出来事を紙に記入し最後に次の一年の目標を書き込むと言う謎の行事です。
確か去年設定した目標は「人に優しくなる」とかそんな目標だった気がします笑
書き込むだけ書き込んで、どうせ次の年末にはその目標が果たされてるのか、果たされていないのかさえ分からないのが恒例です。
「今年もなんやかんや色々あったなー。」
僕はそんな風に独り言を言いながら、スケッチブックに1月から12月の文字を書き込みました。
そして、いざ1月の出来事を書き込もうとした所、非常に寂しい気持ちに襲われました。
「明日オレと一緒に今年を振り返る人ー!!」
前日に仲の良い友達のグループラインにラインを入れましたが、既読は全員分ついて返信は0でした。
きっと、みんなそれぞれ予定があるのでしょう。
恋人と過ごすのか、家族と過ごすのか、はたまた別の友達と過ごすのかは知りませんが、僕にとってはそのグループラインの友達が一番の友達でしたし、一番みじかな奴らでした。
当然今年もこいつらと一緒に過ごすのだろうなと思っていましたが、いつになっても年越しどうするかの連絡は無く、とうとう前日になって自分から連絡したら既読スルーの始末です。
彼らにとっては僕より優先する人がいるんだなー。
そう思うと泣けて来ました。
どうやら去年設定した「人に優しくする」と言う目標は達成出来てなかったのかもしれません。
バイト先では常連さん達が一緒に年越しをするのでしょうが、働いてるならまだしも、休みの日に遊びに行って一緒に年を越したいと思うほど僕は常連さん達の事が好きではありませんでした。
「こんな事ならバイト入れとけばよかったなー。」
僕はペンを置いてそうぼやきながら、ラインの友達の画面をスクロールしていました。
そして一度ユキの所で止まって、またスクロールしました。
結果は最初から分かっていましたが、年越しギリギリになって気軽に誘えるような奴の名前はありませんでした。
Aは名古屋の実家に帰ってるようでした。
「孤独な年越しは辛いなー。」
僕は思わずため息をつきました。
しかし、ため息をついたのもつかの間、スマホが鳴りました。
ユキからでした。
自分から連絡する事は許されないと決めながら、心のどこかでユキから連絡が来る事を待っていました。
僕はすぐにラインを開きました。
「もうすぐ今年が終わりますねー。まだ年は空けてないですけど色々ありがとうございました!」
意味深なラインでした。
でも内容なんてどうでも良かったのかもしれません。
僕は一瞬悩んだものの、すぐにユキに返事を返していました。
「ユキちゃんは年越しどうやって過ごすの?」
「いやー特に予定がないので家でのんびり過ごします笑」
すぐに返事が返って来ました。
「オレ今、今年を振り返ってるんだけど良かったら一緒に振り返る?笑」
僕は例によって意味深なラインを送りました。
「えっ、どう言う事ですか?笑」
と返事が返って来ました。
それはそうです笑
「とりあえず1時間後にコメダで!笑」
説明すると面白さが半減すると言う、自分なりの謎の理屈に沿って僕は強引すぎる返事を返しました。
「分かりました…笑」
10分置いて彼女からそう返信が返って来ました。
今思えば年の瀬の大事な時期に、こんな適当な誘い方でよくOKしてくれたものです笑
1時間後、コメダにユキはやって来ました。
「どう言う事ですかー?笑」
彼女は席に着くなりそう聞いてきました。
「てか、よく来たね笑、予定なかったの?大晦日なのに悲しい奴だなー笑」
意地悪く僕は言いました。
「余計なお世話です!隼人さんこそ何やってるんですか笑」
笑いながら彼女はそう言いました。
僕はその言葉を無視して「今年はどうだった?」と話を展開させました。
「今年ですか・・あんまりいい年ではなかったと思います。」
そう答える彼女に対して僕は「そっか、じゃあ、はい。」と言って1月から12月の文字が書かれた紙とペンを手渡しました。
「なんですかこれー笑」
「まずは今年を1月から12月の順に振り返って、月毎にあった出来事を記入していきます。そして全て記入し終わったら最後に来年の目標を記入します。」
「一人で何やってるんですか!笑」
ユキは珍しく爆笑してそう言いました。
「毎年の恒例行事だからな。」
僕はあえて真顔で答えました。
「そんな書く事ありませんよー。てか1月の事なんて思い出せないです笑」
彼女はそう言いながらノリノリで紙を広げてくれました。
「それだけ内容のない一年を過ごしてたって事だろ。だからこそ来年は実りのある一年にする為に目標を立てなくてはいけないいんだよ。」
僕は自分が去年の目標さえも忘れていた事を棚に上げて答えていました。
ユキは頭を抱えながらもペンを握り1月の欄に「セイカと初詣」と記入しました。
「いやっ、初詣って!笑」
「うるさいですねー笑」
彼女は有難い事に真剣にこの行事と向き合ってくれました。
その後1時間程、僕たちは無言で今年一年の出来事を振り返りました。
ユキはスケジュール帳やtwitterやらをチェックしながら今年一年の出来事を見返していました。
一通り書き終えた僕は「出来た?」と言いながらユキの用紙を覗きこみました。
「見ないでください!笑」
彼女はそう言いながら、紙を隠しました。
「いざこうやって書いてみると書くほどの事ってあんまりないですよね。」
そしてそう付け加えました。
隠す前に見えた紙はほとんどが空白でした。
どうやら、1時間のほとんどをスケジュール帳とtwitterのチェックで使っていたようです。
ただ8月の「大阪旅行」から9月10月11月が空欄で、12月の欄に「隼人さんと仲良くなれた。」と言う文字が見えました。
Aの事は一切記入していませんでした。
「ユキちゃんと仲良くなれた。」
僕も何も言わず12月の欄にそう記入しました。
Part.7 へ続く