Epsode.4 【12月22日】
12月22日、街がクリスマスモードに包まれる中、僕とユキはまたしてもコメダ珈琲で向かい合っていました。
ユキは12月にも関わらず、長かった髪をバッサリ短くして現れました。
淡い茶髪だった髪色は少し派手な金髪に近い色に染められていました。
ずっと昔から女性の髪はショートカットだろ!と思っていた僕は思わずドキッとしてしまいました。
そういえば、一度ユキに最上もがが好きだと言った事がありました。
少し幼いユキの顔に、明るいショートカットの髪はよく似合っていました。
「髪切ったんだね。」
「はい。」
彼女は少し恥ずかしそうに答えました。
「ショートの方が全然似合ってるんじゃね?」
人を褒めるのが苦手だった僕はぎこちなく言いました。
「そうですかね、」
彼女は少し顔を伏せてそうと言いました。
そして、ユキは「残念でしたね。ミサちゃん。」と何故か半分笑って言いました。
「まあー、別に全然いいんだけどさ笑」
これは半分本音でした。
確かにミサちゃんがアキラくんと付き合ってると知った時点では動揺しましたが、僕は割に気持ちの切り替えが早いタイプで、その事実を知ってから2日経ったこの日の時点で、自分の愚痴を聞いて欲しいという気持ちはほとんど消滅していました。
「付き合ってるなら最初にそう言って欲しいよなー。女の考えてる事はよう分からん。」
一応、辻褄を合わせる意味で、なんとなくそうぼやいておきました。
ユキは笑っていました。
その後自分の愚痴をこぼす事はせず、僕はユキに話を振りました。
「A大分荒れてるよ。ユキちゃんの事まだ好きみたいだしいいの?」
今思えばなんとも無責任な発言です。
「そんなの知りませんよ。別れたのにずっとライン来るしもう怖いです。また来た。」
丁度その瞬間にもAからのラインが入りました。
彼女のスマホの画面をちらっと覗くと、Aからの長文がずらりと並んでいました。
彼女はAからの長文に対してたまに「うん。」とか「分からない。」と短文を返しているだけでした。
内容はやり直さないかという事や、長文の反省文、かと思えばユキに対する人格否定、やり直せないのであれば身体の関係だけでも続けさせてくれ。
等、支離滅裂で多岐に渡るものでした。
一番目を疑ったのは「このまま本当に別れるのであれば、お前の秘密全部バラすぞ。」というような内容でした。
僕はきちんと見るつもりなんてありませんでしたが、その文章のあまりの悲惨さに思わず絶句してしまいました。
ユキは恐らくごちゃ混ぜな感情で言いました。
「もう、疲れた。」
12月22日、今年も残す所あと僅かでした。
彼女は窓の外の光る桜並木を眺めながら漏らしました。
「今年は本当に最悪だったなあ。」
僕はこの後、またしてもバイト先の後輩「りょうた」と飲みに行く約束をしていました。当然ユキとも知り合いです。
ユキの事を楽しませてあげたい。
なんだかそう思い始めた僕は「オレこの後りょうたと飲みにいくんだけどユキちゃんも一緒に行かね?」と、提案していました。
「えっいいんですか?邪魔じゃなければ行きたいです!」
ユキはそう答えました。
2時間後、僕はユキとりょうたが待つ居酒屋に向かいました。
「うぃっす!あれユキさんじゃないすか!うぃっす!」
りょうたはアホの子なので、僕とユキが一緒にいる事に特につっこんだりせず言いました。
僕はりょうたのこういう所が好きでした。
りょうたはアホの子なので、ひたすら一人でベラベラ喋り続けていました。
そして彼はAの事が心底嫌いでした。
僕にもよく「死んで欲しい。」と漏らしていた程です。
「てか、ユキさんあいつと別れたんでしょ!マジで正解っすよ!あんな奴と一緒に過ごす時間、人生の無駄遣いです!!」
僕はユキに真っ正面からAの悪口を言う事に抵抗を持っていたので、りょうたがそう言ってくれる事によって、なんとなく自分の気持ちを代弁してもらえているような気がしました。
一通りAの悪口を言ってからも、彼は永遠に喋り続けました。
くだらない事を言い、一人で爆笑していました。
その光景は、どこにでもあるありふれた友達同士の会話でした。
Aの束縛やモラルハラスメントで精神が不安定になったユキには、そんな些細な幸せが大切な事のように思えました。
ちらりとユキの顔を覗き見ると、お酒の飲めない彼女はオレンジジュースを片手に幸せそうに笑っていました。
「じゃあ、オレこの後夜勤なんで!」
一通り喋りきったりょうたは、そうと言うとバイト先に向かいました。
「今日はありがとな!」
休みだった僕はユキと、彼に手を振りました。
「あいつよく喋るよな、ちょっと喋りすぎじゃね笑」
彼が去ってから僕は思わず言いました。
「ちょっと、疲れました。一息つきたいです笑」
彼女は笑いながら答えました。
街はクリスマス一色でした。
「綺麗ですね。」
鮮やかに彩られる桜並木を見ながら彼女は呟きました。
嬉しいような、切ないような表情のユキに僕は胸が詰まって
「こんだけ節電節電、言ってるくせに電気の無駄遣いだろ笑」とロマンのかけらもない発言をしました。
「それもそうですね笑」
彼女は一瞬僕の方を向いてからとそう言うと、笑いました。
僕たちは七色に彩られた街並みを、白い息を吐きながら歩きました。
Part.5 へ続く